Canon EF50mm F1.4 名玉論

by on 2013年1月11日金曜日

EF 50mm f/1.4 (f/1.8, 1/640, ISO200)

 私が愛用しているCanon EF 50mm f/1.4 USMが、世評、評判が悪いのに対して、私は名玉だと思っているので、そのことについて書こうと思う。
 カメラの世界に、名機、名玉(良いレンズのこと)という言葉がある。カメラもレンズも、決して安い買い物ではないから、購入するに当たってカメラ雑誌やネットの製品レビューを調べることになる。私もその一人だ。だが、結論から言って、そうした事前情報が当たることはまずない。とくにレンズにおいては。
 これは考えてみれば当然のことである。カメラ本体については、スペック(画素数とかセンサーの種類とか連射性能とか)が最も重要であるから、そこに評者の主観が入り込む余地は少ない。だがレンズは、スペック(レンズ構成とかガラスの種類とか)がどうあれ、結果的にその人が撮った写真を通じて評価せざるを得ないので、語れば語るほど主観的ならざるを得ない。そこに、レンズ評価の曖昧さがあると同時に、レンズを語る楽しみもまた存する。

 別の角度から話そう。名玉の条件とは何か?
 名玉、ということで、私が思い出すのは、Leitz summicron 35mmの8枚玉だとか、Noct-Nikkor 58mmだとか、LeitsのNoctiluxだとか、あまり詳しくないからその程度だ。どれも30〜50万円以上する高価なレンズだ。どれも使ったことがないので、私には分からない。
 私にとって名玉の条件、それは「信頼できるレンズ」、その一言に尽きる。
 例えば、「写真の仕事で、一本しかレンズを持って行けないとする」というような話の持っていき方で語られることが多いが、そういう場合に名玉は特に必要ない。単にクライアント(もしくは編集者)が求めているであろう絵を想定し、それに対して必要充分な玉を一個持って行けば済む話だ。
 問題は、「写真家が、何の求めもなく、ただブラッと散歩するときに、一本しかレンズを持っていけない場合、どのレンズを持って行くか?」である。
 これは、「仕事で一本しか」という場合と違って、度々直面する事態である。そして、この時ほどレンズ選びに苦慮することは他にない。なぜなら、写真家が何の求めもなく写真を撮ろうというとき、それは間違いなく写欲が増進している時である。そして、あわよくば良い写真を撮って、新しい写真のテーマを始めたいとか、芸術的な写真集でも作るきっかけにしたいとか、そんな不埒な期待で頭が一杯になっているものだからだ。
EF 50mm f/1.4 (f/5.6, 1/800, ISO100)

 そんな時、私は持って行くのがデジタルであれば、私が持つ唯一のデジタルカメラであるCanon 5d Mark Ⅱに、Canon EF35mm f1.4LではなくEF50mm f1.4USMを装着して行く。
 なぜなら、この一本を持っていけば、自分だけの狭い表現の隘路に強く踏み込むことはできないまでも、想定されるあらゆる「芸術的事態」に対処できるという信頼を、このレンズに持っているからだ。平たく言えば、一歩引いたフラットな風景描写にも、人が数人映り込んだスナップ撮りにも、対象に一歩迫った深い芸術的描写にも、このEF50mm f1.4 USMであれば、自分が記憶する場面以上の写真的な結果を出してくれると信頼しているからだ。さらに噛み砕いて言えば、F8まで絞れば、シャープなパンフォーカスの風景写真が撮れる。F4〜5.6くらいで、僅かに背景がボケた味のあるスナップが撮れる。そしてF1.8まで開けて撮れば(F1.4ではない)、背景がトロトロにボケて、しかもピントがシャープな深い写真が撮れる。と、まあそういうことだ。しかも、光が強すぎれば半段アンダーで、光が弱ければ1段くらいオーバーで撮れば、色味もしっかり乗って、その後のLightroomでもいじり甲斐のある絵が撮れる。

 と、ここまで持ち上げておいて何だが、私はこのEF50mm f1.4を買って3年ほど、クソレンズとしてまったく使ってこなかった。だが、35mmf1.4Lのゴージャスで破綻のない描写に飽きた後、何気に使ってみてこのレンズの素晴らしさに気づいたのだ。それまでは、レンズシステムの要である50mmに、こんなクソレンズを置くCanonの見識を疑っていたが、今では、評判の悪さに関わらず、長年このレンズ構成を変えなかったCanonのブレない姿勢に感銘を受ける。要はそれだけ、レンズの評価というものは難しいということだ。

 このCanon 50mm F1.4 USMは、現行のAFレンズには珍しいクセのある名玉だと思う。その意味で、アナログレンズ的な魅力のある渋いレンズだ、というのが私の結論だ。おそらく買ってすぐの人は、使ってみて少し落胆するか、「まあこんなものか」と思う程度だろう。しかし、Canon Lレンズのシャープでゴージャスで破綻のない「平凡な」描写に飽きた後、もう一度このレンズを使ってみて欲しい。絞りによって「線の太さ」が変わり、光や被写体に結果が左右され、撮るときに「うまく撮れてくれ!」と強く念じずにいられない所(これは重要な点だ。デジタルでは中々味わえない「撮影の緊張感」が得られる)、そして扱いに慣れてくれば、予想以上の結果をコンスタントに出してくれるこのレンズの魅力の虜になるだろう。
 レンズの良し悪しは長く付き合ってみなければ分からない。それがこの長い駄文の結論といえば結論である。
EF 50mm f/1.4 (f/1.8, 1/160, ISO800)

There is 10 comments in this article:

  1. こんにちは
    このレンズが気になっていました
    といっても僕の場合は7Dで画角がかわるので
    ちょっと違うかもしれませんが大変参考になりました。
    僕はまだ名玉なんてわかる程知識も経験もないですが
    掲載の写真には写真として魅力を感じたので
    道具は使う人ありきなんだな〜と改めて痛感しました。

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    1. こんにちは!あまり機材のことを語るのは好きでないのですが、このEF50mm f/1.4に関しては、何かダメレンズであることが当たり前、みたいな書かれ方が多く感じたので、一言擁護したくて書きました。
      作例の写真は、ほとんど撮ったままの写真です。2番目の風景写真は、色味を大きくいじって(Lightroomで)ますが、パンフォーカスのシャープで歪みのない描写が伝われば、と思い載せました。
      これは、現行のAFレンズには珍しい、味のあるレンズだというのが、私の実感です。こういう渋いレンズを、現行として長く発売してくれているCanonに感謝です。
      最初は少しがっかりするかもしれませんが(笑)、ぜひ辛抱強く、じっくり付き合ってみてください。これは決してダメレンズではありません。「ある意味」名玉だと思います。

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  2. 50mm レンズって基本中の基本ですネ。
    永く35mm を最近は40mmを使ってましたが
    急に50mmが気になり、買い求めました。
    デジタルのカリカリの画像に飽きてきたのかな !
    このレンズはメリハリより中間調を大切にしている感じ
    色調もニュートラルであっさりした色のり
    モノクロ写真を撮りたくなりした。

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    1. ありがとうございます!
      50mm買われましたか。長く50mmを愛用する自分にとって、50mmは「一番便利なレンズ」、これに尽きます。
      たくさんレンズを持って行けないときは、間違いなく50mmを持参します。そうすれば、近寄れば中望遠のようなポートレイトも撮れるし、離れて構図を考えれば広角のようなスナップも撮れる。
      しかも、パースが自然なので、見てて飽きない味のある写真が撮れる・・・気がします(笑
      私はほとんどの場所で、ホワイトバランスの「くもり/6000ケルビン」モードで撮ってます。
      そうすると、やや黄味がかりますが、こってりした色調になって私の好みです。
      上の作例もすべて「くもり」モードで撮ってます。
      参考になりましたら!

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  3. 興味深い記事でした。
    開放では描写に問題があるのでしょうか?

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    1. 読んでいただきありがとうございます。
      古いマニュアルの大口径レンズによくあるように、このレンズも開放だとピントがきません。
      1.8で撮ると、ピントもシャープでボケも円形を保っているので、自分はF1.8を多用しています。
      ISO4000くらいまで常用範囲の現代のコンデジなら、1.4と1.8の違いはほとんどありませんし。
      そういうところも含めて味があるレンズだと思います。

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  4. 興味深い内容の読み物ありがとうございます。
    EF50mmF1.4usmは家族旅行の際にレンタルしました。
    素人が数日使用した程度ですが、雰囲気を感じさせるレンズだなぁ(主観ですね笑)と思いました。

    今は50mmF1.8を所持しており、貯蓄も無いので手は出せませんが、そのうち古賀さんのようにこのレンズとゆっくり付き合えたらなと読んでて思いました。

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    1. コメントありがとうございます!50mm/1.8も名玉だと私の回りでもっぱらの噂です。私は所有してませんが・・・。
      ぜひいつか1.4も購入してみてください。噛めば噛むほど味がでる長く付き合えるレンズであることは保証します!

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  5. はじめまして。
    大変興味深いお話、ありがとうございます。

    実は私もこのレンズを3年ほど放置していました。
    しかし、あるレンズに買い換えるため、手放そうと決意。
    迷いを断ち切るべく、ライブ撮影に持ち出したところ、
    出てきた画に大変驚き、結局今も所有しています。

    その写真はアーティストさんも大変気に入って下さり、
    もうちょっと撮っておけば良かったと後悔...(苦笑)

    いわゆる「名玉」の定義とは違うのかもしれませんが、
    良いレンズであることには違いない気がします。
    撮り手側の熟成が必要なレンズなのかなぁ...と。

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  6. はじめまして!コメントありがとうございます。
    「撮り手側の熟成が必要なレンズ」いい言葉ですねー。このEF50mm/1.4はまさにそんなレンズだと思います!
    レンズの評価って、本当に長く使ってみないと分からないですね。
    ぜひこれからも50mm/1.4を使ってみてください!

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